5.聞法を人に勧めるまでに


□金 光 これまで志慶眞先生が長い時間をかけた聞法の中で、仏法の広い世界に気づかれるまでのお話をうかがってきました。その後、熱心に聞法の会を開いていらっしゃいますが、あまり仏法になじみのない方に、いきなり仏教とはとかお経はこうと説明してもなかなか届かないところを、いろいろ工夫されていらっしゃることと思いますが。
■志慶眞 沖縄は念仏の教えに縁の薄い土地柄ですから、こういう教えはなかなか理解しがたいのです。それで、お呼びする先生には「こういう状況ですから、人間の生き方の問題を話してください、初めから念仏の話をすると来なくなりますので」そう注文をしてスタートしたわけです。
 五十名くらいの人に声をかけたのですが、集まったのは数名でした。初めは夫婦二人で聞くことが出発点でしたから、一人でも二人でも来てくださったら、それだけでうれしかったですね。医院内に掲示を出したり、知り合いに声をかけたりして、二、三年後には毎月公開講演会を開くようになりました。
 さらに継続して聞かれる方々が出てきて読書会も始めました。この読書会はその後、毎週開くようになり、もう十年くらいになります。沖縄ではこの教えはゼロからのスタートですから、本を読み、語り合いながらわからないことはわからない、疑問に思ったことは疑問と言おう。疑問を抱えたまま聞き続けてみよう、この教えは聞けば必ずわかる教えだからというメッセージを送りながら続けてきました。
 そして三年目くらいから「沖縄聞法通信」を出すようになりました。島根県から来られる岡本英夫先生の話を多くの方々に聞いていただきたいという願いをもって始めた聞法通信ですが、自分たちの思いも綴って、いま全国に二百部くらい発送しています。
 往復書簡に出会うまでは仏法を聞いているということさえ気恥ずかしくて人にはとても言えなかったのですね。しかしその後、この教えをいただいて歩まなくてはと決断するまでには三年ぐらいかかりました。その間に関先生は亡くなられ、細川先生も亡くなられました。お二人が亡くなってから、沖縄でこの教えのためにできることを本気にやってゆこうと思いました。もしこの教えに会わなければ、私はこの人生をむなしく終わる以外になかった、何のために生きて、何のために死んでゆくのかわからないままで一生を送ってしまうところでした。この教えに出会えて新しいいのちをいただいた、この場所で生きてゆける、そういう思いが自分にあったものですから、三年目ぐらいから聞法を積極的に人に勧めるようになりました。この仏法の教えがひとりでも多くの人に届くことを願いながら、毎日の仕事をしています。日頃は病院の職員にもミーティングでときどき仏法の話をしたりしながら、今日に至っています。
□金 光 ただ、たとえばこのお経にはこういう願があって、四十八願とはこういうものだというような説明ではなくて、現代人にとっても生きている問題で、さらに言うと、先生ご自身が抱えていた生死の問題、現代はその死を遠ざけようとするような生き方が盛んな時代ですし、病気も多く、死を考えざるを得ない境遇に直面したときに、慌ててどたばたしてもどうにもならないわけですが、こういうかたちで話をされると仏法の受け取り方も違ってくるのではありませんか?
■志慶眞 そうですね。だからこの仏法の教えをいろいろな人に届けたいですね。今、若者が行き詰まっています。ここの公開講演会のときに、本土から来られたある先生が、駅の階段やコンビニの前などでたくさんの若者たちがたむろしているがあの人たちもみんな往生人なんですね、とおっしゃった。それを聞いて私は、親に反抗する息子の問題を抱えていましたから、ああそうか、みんな道を求めている、みんな往生人だと思いました。往生人とは、大きい世界に生まれたい、生きるとは何か、死ぬとは何か、人生とは何か、そういう根源的な解決を求めている人ということです。
□金 光 そういうことを自分で意識していない人も多いでしょうね。
■志慶眞 そういう人たちにも、本当に生まれてきた意味といいましょうか、ああ生まれてきて良かったといえる、そういう人生が開かれるきっかけを作ることができたら、と。私どもは生老病死といいますけれども結局、それは動かすことのできない、みんな背負っていかなければならないものですね。それを超える道があるのだとお釈迦さまは言われたわけです。日常の私どもの世の中では、ある種のテクニック、例えばカウンセリングとかで解決しようとしますが、仏法とはそういった解決のしかたではなくて、もっと大きな世界に人間を出すことによって解決しようとしているのです。
 私どもは病気にもなるし、年もとるし、死ぬこともある。決して喜べないけれども、それを通して大きい世界をいただくことができる、そういう人生をたまわることができる、そういうものではないかと思うのです。

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